私の体験が人生の大切な選択の際に、参考になればと思い書かせていただきます。はじめに結論を言いますと、給料の額は大切ですが、折角の就職をそれだけで決めるのは勿体ないと思います。
まず私が驚いたのは、薬剤師の時給でした。学生時代のアルバイトでは、時給800円は当たり前でした。ところが、薬剤師の免許を取った途端に、時給は一気に跳ね上がりました。確かに仕事の内容は変わりましたが「自分の中身は何も変わっていないのに」です。嬉しい反面、かなりの違和感を覚えました。
次に給料を増やそうと考え、昼間の調剤薬局での勤務後、夜はドラッグストアでアルバイトを始めました。その結果、20代にしては悪くない給料だったと思います。
ところが直ぐに、自分の作戦は行き詰まることに気が付きました。既にひと月の労働はかなりの時間に達していて、給料を上げる方策があっという間に尽きてしまったのです。それどころか、あと数年すれば30代になり、体力的にも今の働き方を続けるのには無理があります。次から次へと若い薬剤師が毎年誕生し、あんなに増えていた調剤薬局が、それほど増えなくなっていました。
ここで初めて、薬剤師になったばかりの頃に感じた違和感のワケを知ることになります。
①たまたまその時、国が医薬分業を推し進めている時だった
②国の方針に、薬剤師の供給が追い付いていなかった
「自分の中身は何も変わっていないのに」時給が跳ね上がった理由に気が付き、これはマズイと思いました。薬剤師の免許を取ったからとは言え、今の給料は自分の実力ではなく、偶然の環境下で高い下駄を履いていることが判ったからです。
分業率は頭打ちになり、薬剤師の数も増加する中、さらに国が調整を図るのですから、運に頼っていては、就職さえもままならなく時が、加速度的にやってくるとかなりの危機感を覚えました。
そこで、薬剤師として調剤薬局で生きていくのであれば、以下の条件下でも置きかえられない自分になる必要を感じました。
1.調剤薬局の数が頭打ちになり職場の数が限られる
2.若く元気で比較的給与が低い新卒薬剤師が毎年何千人と調剤薬局に排出される
3.今まで薬剤師がやっていた仕事が機械化される
4.薬剤師の仕事の一部が、テクニシャンのような職業の人に解放されるかもしれない
5.40枚に1薬剤師との規制が排除されるかもしれない
そして自分なりに出した答えが、コンピューターでは算出できない課題の答えを導き出せるようにする、高度な交渉・調整をおこなえるようにすることでした。私は現場から離れ自分が立てた目標に近づけるよう多くの貴重な経験をさせていただいていますが、現場で出来ることも沢山あると思います。
例えば、自分にしかできない患者さまに喜んでいただく方法を見つける事も一つだと思います。本やインターネットの情報を単に伝えるだけでは不十分です。そんな程度であれば、体調が悪いときに薬剤師の棒読みの説明に付き合わず帰宅してスマホで検索すれば十分です。併用薬、その患者特有の体質、家族構成などの情報から、オーダーメイドの服薬指導を提供できれば、インターネットに取ってかわられる日はかなり先でしょう。
中には、気難しいドクターもいらっしゃるかもしれません。コミュニケーションが上手な人であれば、処方意図を掴みにくい時、処方に疑義を感じた時、ドクターの本当の意図を聞き出し、患者様に本当に必要な服薬指導を的確に行えます。ドクターに適切な助言を行う場面もあると思います。そのためには、日頃から医療パートナーであるドクターと、良好な関係を築く力も必要です。
人の気持ちを汲んだり、交渉したりする仕事は、能力差が歴然と出ます。逆を返せば、勉強し、経験を積み、力を付ければ、他の人と差別化を図れる部分でもあります。難しい相手であればある程、自分の価値は高まります。
薬剤師であろうと薬局であろうと、聖域は存在しないと思います。自分だからこそできること、自分たちだからこそできることにチャレンジできる環境は、これからの時代をリードする若い方にとって目先のお金より、よほど大切ではないかと思います。